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コラム

50周年を迎える全米IR協会(NIRI)
~新たな挑戦(ESG情報の開示への取り組み)へ~

2019年5月30日   
埼玉学園大学大学院客員教授 全米IR協会(NIRI)会員 米山徹幸

世界最大のIR(投資家向け広報)団体、全米IR協会(NIRI)が今年創立50周年を迎える。
過去50年の歩みを記録する写真やパンフなどの関係資料があれば、私的なものも含めてNIRI事務局に連絡してほしいと呼びかけ、6月の年次大会(アリゾナ州フェニックス)に向けて大掛かりな企画が進行中だ。


そんな年次大会は創立50周年を祝うだけではない。
大会スローガンに「IRのパワー」とある。
この1月、NIRIはIR担当者向けにESG(環境・社会・ガバナンス)ポリシーを発表し、ESG情報の開示に向けて新たな挑戦に踏み出す動きに出た。「IRのパワー」を示す好機だというのだ。


【NIRI、ESG情報ポリシーの発表】
NIRIのESGポリシーは、まず、その「背景と目的」を説明する。
この10年で、投資家や格付け機関、NPO団体などから企業のESG情報の開示を求める動きが急増していること、機関投資家や個人投資家の多くが投資判断のプロセスにESGやサステナビリティ(持続可能性)データを利用していること。
また、ESG問題は年次株主総会で環境や社会的なテーマに関連する株主提案の数は増え続け、ガバナンスに関する提案の数を超えるほどに至っている。


つまり、ESGがIR担当者の投資家コンタクトで大きなテーマとなっているというのだ。
そして、続く「ESGポリシー」で4つの大きなポイントを指摘する。
① 自社や同業他社、業界におけるESG情報開示の状況を把握する。
② どの企業でも同じ一律のESG情報―という考えを取らない。
③ ESGの開示の範囲と内容は、各社固有の重要性の考慮事項と業界/セクターの慣行に基づくべきである。
④ ESG情報の開示は、各社のディスクロージャー委員会、そして大手投資家との協議の上、各社で決定されるべきである。


ここで見逃せないのは、ディスクロージャー委員会の役割、そして大手投資家との協議を盛り込んでいる点だ。


IR関係者にESG情報を全社的な組織の決定に拠って取り組むこと、大手投資家は対話の相手である点を意識したものだ。


さらに「ESGポリシー」は、「多くの投資家にとって、ESG要因の開示は企業の長期的な株主価値や、四半期戦略から長期戦略に関して、より慎重な議論切り開く道を開く可能性がある」と、その効用を語っている。


【ESG情報の開示は、NIRIの新たな挑戦】
ESGポリシーの発表後、NIRIはその解説動画をアップ。全米35都市に広がるNIRIの支部も動く。今月はクリーブランド(オハイオ州)やシカゴなどでESGセミナーが予定されている。


例えばシカゴのセミナー。
SECへの年次報告にESG情報の掲載を求めるSASB(米サステナビリティ会計基準審議会)で具体的な業種別ガイドラインを作成した担当者の話、機関投資家によるESGインテグレーション(ビジネス・モデルや財務指標の分析だけでなく、ESGの分析も投資判断のプロセスに組み込む)の説明。
さらにESG情報の開示で先行する事例を他社のIR担当者が具体的に語る、といった内容となっている。
そんな支部のセミナーの様子は順々に動画配信される予定だ。


6月の年次大会プログラムでも「ビジネスにおけるESG価値の発見」「ESGコミュニケーションを取り入れたIRプログラム」とか「ESG戦略の開発」などESGの活字がおどる。

ESG情報の開示はNIRIの新たな挑戦だ。そして「IRのパワー」の真価も問われている。
欧州やアジア・太平洋はもちろん、その動向を追う内外のIR関係者は少なくない。


Profileライタープロフィール

米山 徹幸(よねやま てつゆき)

IRウォッチャー・埼玉学園大学大学院客員教授、全米IR協会(NIRI)会員。

大和証券(国際部)、大和IR、大和総研を経て、埼玉学園大学大学院教授。
2017年より現職。主な著書に「大買収時代の企業情報」(朝日新聞社)、「21世紀の企業情報」(社会評論社)、「イチから知る!IR実学」(日刊工業新聞社)、「イチから知る!フェア・ディスクロージャー・ルール」(きんざい)など。

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