コラム
2012.2.1
デジタル化はエンタテインメント産業をどう変えたのか
戸口功一/株式会社メディア開発綜研
◆音楽から始まったデジタル化の流れ
デジタル化の流れでは、インターネットコンテンツの先駆者としてストリーミングおよびダウンロード配信サービスが2000年前後から話題になり始めた。
インターネット上ではiTunesからダウンロードするケースもみられたが、ほとんどは保有しているCDからiPodなどへコピーすることにより利用されていた。
しかし、携帯電話が爆発的に普及し、そのキラーコンテンツが着信メロディであったことから、携帯電話で音楽をダウンロードする文化が徐々にではあるが
育ってきた。
その先駆けが2002年から始まった着うた(R)である。
このサービスは原版を使用していないためレコードメーカーは着信メロディでは収益にならなかったが、これによってマネタイズ化ができるようになったことは業界として大きな出来事となった。
そして、2004年に1曲をそのままダウンロードできる着うたフル(R)が開始されると配信ビジネスは1000億円に迫る市場へと成長していった。
◆ケータイから生まれた文化に行き詰まりが‥
しかし、ここでカニバリズムを起こすこととなる。2006年を境にシングルCDと配信の売上は逆転することとなり、シングルCDは徐々に減少のスピードが速く
なっていく。
このまま順調にいくと思えた配信ビジネスであるが、すでに踊り場を迎えている。2008年をピークに2009年、2010年と市場が減少し始めたのである。
音楽産業にとって配信ビジネスの減少よりも大きい問題は、アルバムの減少が止まらないことにある。
ここ10年間で市場は半減している。これはパッケージからノンパッケージへのビジネス転換以前の問題であり、音楽産業にとってビジネスモデル自体の転換点
にきているといえよう。
◆電子コミックの登場
電子コミックも音楽配信と同じく携帯電話のコンテンツプラットフォーム上で市場が形成されたビジネスといえよう。
一方、従来のマンガ単行本は2005年まで2500億円規模で上がりもせず、落ちもせず推移してきた。
マンガ雑誌が減少する中、単行本で収益を上げてきたのが出版業界である。
その単行本が2005年を境に減少傾向に転じている。
さらに、一部のメガタイトルの市場に占める割合が増加してきている。単行本の減少とヒット作への偏りはマンガ産業として危険信号といえるだろう。
電子コミック市場は2005年から急速に普及し、2009年には500億円にまで達している。
すでに単行本市場の2割に相当する。単行本が減少する中、電子コミック市場の形成は、マンガ全体の市場を押し上げる結果となった。
しかし、電子コミック市場が2010年に伸びが止まったことにより、マンガ市場も分岐点にきているといえよう。
◆ここでもコピーの影響が‥
電子コミックの停滞は、コピー問題が大きな影を落としている。音楽の時と同じようにタブレット端末でマンガを閲覧する場合に、「自炊」と呼ばれる現象が起こっている。
既に購入済みの単行本やマンガ雑誌の連載を切断しスキャンによってPDF化しタレット端末で閲覧するスタイルである。
これは音楽CDをMP3にするのと同じことであり、コピーしやすいコンテンツは総じて同じ轍を踏むことになる。
◆多様化するゲーム産業
ビデオゲームはもともとデジタルであり、それをアーケードゲームからパッケージゲームへとビジネス展開を図った。
そして、その中身は他のコンテンツとは異なり、複雑なプログラムで作られ、ゆえにプロテクトも強固なものが採用されている。
コピー問題は存在するが、他のコンテンツよりも顕在化しにくい特徴がある。
2000年以降、ソフト市場は3000億〜4000億円の範囲で推移しており、他のエンタテインメント産業に比べればマクロ的に安定しているといえよう。
そして、オンラインゲームがアジアを中心にヒットし始めると、その潮流は日本にも飛び火し、2010年には1000億円市場に成長した。
携帯電話上やオンラインゲームの亜流として登場したのが、SNS上でのゲームである。
プラットフォームをデバイスに帰属しない形が新しく、ビジネスモデルも入り口無料、ゲームを優位に進行したければアイテムを購入するといったスタイルを
定着化させた。
2009年以降、アイテム課金収入は急激に伸びており、2010年にはオンラインゲームを抜き、1400億円弱にまで成長している。
◆ゲームは異質?
新しいゲームが台頭している中、パッケージゲームは、2008年から2009年にかけて大きく売上を落としている。
しかし、マクロ的にみると、2000年以降新しいゲームの登場によって市場全体は右肩上がりになっている。
音楽、マンガ、ゲームをみてきたが、その領域の中で新しい分野が生まれ、新しいプレイヤーが登場する産業と、既存ビジネスの枠組みの中で変化させよう
としている産業では状況が違うようである。
コンテンツ自体の汎用性の問題もあるが、音楽、マンガ、ゲームの中から新しいジャンルが形成されなければネットワーク社会に飲み込まれてしまうことは間
違いないようだ。
*今回のコラムは筆者が「ビジネスファミ通」に寄稿したものを抜粋。
ライタープロフィール
戸口功一(とぐち こういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発・綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員。2012年代表取締役社長に就任。
1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、「ネット広告白書」、新映像産業推進セ
ンター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等
を多数手掛ける。


