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コラム

協働の一歩先を行く「コレクティブ・インパクト」

2018年03月16日   
NPOマーケティング研究所代表 長浜洋二

ビジネスセクターでは、複数の企業によるコラボレーションにより、単独では獲得できない成果を目指すことは一般的である。共同出資や共同研究、共同開発など様々な場面で実践されている。


ソーシャルセクターにおいても「協働」という名の下、NPOと行政、NPOと企業、NPO同士など様々なかたちで実践されているが、米国では似たような考え方として『コレクティブ・インパクト』(Collective Impact)と呼ばれるものがある。直訳すると「集合的な成果」だが、その定義は「異なるセクターにおける様々な主体 (行政、企業、NPO、財団など)が、共通のゴールを掲げ、お互いの強みを出し合いながら社会課題の解決を目指すアプローチ」だ。


こうした考え方が登場した背景には、現代のように複雑化・相互依存化した社会では、単独の組織や個人による課題解決への取り組みだけでは限界があるという認識がある。


一見すると日本でいう協働と変わりがないように思えるが、コレクティブ・インパクトが成立する条件として、以下の5つがあげられている。


・共通のアジェンダ
全ての参加者が変革に向けたビジョンを共有していること


・共有された 評価システム
データ収集と効果測定により、取り組みを評価するシステムを共有していること


・相互強化の取り組み
参加者個々の強みを活かし、取り組みを相互に補完し合えること


・継続的な コミュニケーション
信頼形成に向け継続的かつオープンなコミュニケーションが行われていること


・取り組みを支える組織
信頼形成に向け継続的かつオープンなコミュニケーションが行われていること


日本の協働との比較で大きく異なる点としては、明確なゴールを掲げ、そのゴールに至るまでの道筋や具体的な到達点を明らかにしていることと、更に、達成状況を客観的な数値データで測定し、誰が見てもプロジェクトの進捗状況が分かるようにしていることだ。

社会課題の実態と解決に至る道筋をデータで可視化し共有することで、プロジェクトの参加者全員が同じ認識を持ち、同じスピードで、同じ方向に進むことができる。ゴールも明確でなく、参加するプロジェクトメンバーもそれぞれの利害を主張するのみで、最終的には声の大きな人の意見がまかり通ってしまいがちな日本の協働プロジェクトとの違いはこうした点にあるだろう。


また、プロジェクトの事務局として、単なる事務作業を超えてプロジェクト全体のマネジメントやファシリテーションを担う組織体の存在も大きな役割を果たしている。


米国のコレクティブ・インパクトの実践事例として、マサチューセッツ州サマービル市で2003年から始まった「Shape Up Somerville」プロジェクトがある。


人口約7.5万人の市だが、ヒスパニック系やラテン系の少数民族の住民が多く、子どもの肥満が一つの社会問題として深刻化していた。


こうした状況に対して、市長の強力なリーダーシップのもと、行政、NPO、企業、教育機関など、100近くの組織や個人がそれぞれの強みを出し合い、子どもたちの食事改善と運動促進という切り口で協働プロジェクトを実施してる。例えば、学校給食のメニューからアイスクリームを止めて野菜とフルーツを増やす、地域の飲食店で健康メニューを開発してくれたら市が認証する、行政が有機野菜のファーマーズ・マーケットを主催する、歩道・自転車専用道・公園を整備する、などだ。


このプロジェクトの成否を測るために、「肥満指数」「エネルギー消費量」「体重」の3つの評価指標を目標として設定。プロジェクト開始当初の3年間、地域の子どもの平均体重が毎年1ポンド減少(統計的にも有意)するという成果を得ている。


ビジネスセクターにおいては、CSRやCSVが浸透しつつあり、昨今のSDGsの動きがそれらをさらに加速させている。そして、SDGsの中では、パートナーシップによる目標の達成が掲げられている。


社会課題の根本解決を図り、持続可能な社会を構築するためにも、コレクティブ・インパクトにみる新しい協働を一歩ずつ確実に実践していかなければならない。

Profileライタープロフィール

長浜 洋二(ながはま ようじ)

株式会社PubliCo 代表取締役CEO。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院卒。

NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利 シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、 ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

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