IRイベントのバーチャルシフトとアニュアルレポート
2021年5月21日
IRウォッチャー・埼玉学園大学大学院客員教授 米山徹幸
新型コロナのパンデミックはまだ続く。
3密(密集、密接、密閉)を避けようと、企業の投資家向け情報(IR)活動も国を問わず、投資家・アナリストとリアルの面談は大半がバーチャル(仮想)の面談に切り替わる。
これまでIRの活動で大きなイベントは、まずCEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)による内外の主要な株主・投資家を年2回ほど訪問するロードショーであり、四半期決算をアナリスト・投資家向けに説明する電話会議(日本では対面式の決算説明会が主流だった)である。
この3月末に発表された大手業界誌IRマガジンのグローバル調査(回答1,082社)*1によると、この1年間に各社ともバーチャルでのロードショー(経営幹部による投資家面談の出張)を平均2.2回、投資家向け説明会を平均3.4回行っているという。こうしたIRバーチャル・イベントを開催した企業の比率は、それぞれ61%、85%におよぶ。
*1)Research Investor Events 20210329
IR Magazine Research Report - Investor Events
電話会議もロードショーでの対話も、ビデオ会議システムZOOM(ズーム)などの採用で、お互いに顔の見えるバーチャルのアクセスが当たり前になり、以前ならCEOやCFOの限られた旅程や時間の制約で足を運ぶことを断念していた株主・投資家とも双方向のコミュニケーションが取れる環境が実現した。
もちろん経費的なメリットも大きい。
こうした進行中のバーシャル・シフトを「新型コロナはIRコミュニケーションの歴史で最高の転換をももたらした」「お互いの顔を見合わせるバーチャル面談はリアルとなんら変わらない」とコメントするIR関係者も少なくない。
では、投資家はどうか――。
社外の投資家からは「IR担当者からの応対がとても迅速になった」という声も聞こえる。(この調査での投資家とは、資産運用の担当者やアナリスト、証券会社のアナリストなど投資コミュニティのメンバーを意味している。)
調査によると、この1年間に投資家は投資家向け説明会に約12.4回、ロードショーに約17回参加している。資産運用サイドの担当者やアナリストは、投資家向け説明会(平均10.4回)と同じ回数のIRデイ(社内の各事業部門の説明を1日かけて行うイベント)に参加し、ロードショーには、それより平均8.6回も多く参加している。
こんなIRイベントの前に、投資家やアナリストがチェックするのがアニュアルレポート(年次報告書)である。
アニュアルレポートは、どの国の企業でも、数か月にわたって、計画、作成、編集、および校正に数え切れないほどの時間と手間を費やすIRツールだ。
オーストリアの企業報告会社NEXXARの別の調査によると、ドイツのDAX30企業の半期報告書は、すでに「コロナ」や「コビッド」、「パンデミック」や「封鎖」などの用語が、各ページに平均1.7回言及されていたという。
これは、日本の企業のアニュアルレポートでも同じだろう。
例えば、「新型コロナは従業員に与えた影響」では、パンデミックによって引き起こされた働き方の変容を語り、「新型コロナに立ち向かう経営」では、人々の命や地域社会、顧客サービスの継続などその最優先事項を具体的に説明する。
もちろん、シンプル、明快、平明に。
そして、CEOや経営幹部のメッセージの内容や掲載する写真の選択に気をつかいたい。
どれも、情報の透明性やクオリティ(質)の点からIR担当者のセンスと知見が問われる。
アニュアルレポートの仕上がりの程度が、コロナ禍の企業に対する信頼につながる。
Profileライタープロフィール
米山 徹幸(よねやま てつゆき)
IRウォッチャー・埼玉学園大学大学院客員教授、全米IR協会(NIRI)会員。
大和証券(国際部)、大和IR、大和総研を経て、埼玉学園大学大学院教授。2017年より現職。
主な著書に「大買収時代の企業情報」(朝日新聞社)、「イチから知る!フェア・ディスクロージャー・ルール」(きんざい)、「新版 イチから知る!IR実学」(日刊工業新聞社)など。
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