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コラム

IRチーム、ESG人材を求めて

2022年6月1日   
IRウォッチャー・埼玉学園大学大学院客員教授 米山徹幸

企業にESG (環境・社会・コーポレートガバナンス)関連の情報開示を求める声が高まる中、IR部門にESGに通じた優れた人材が加わる例が増えています。


自社の製造現場や、サプライ チェーン、製品、産業廃棄の仕組みなどに通じ、投資家などの求めに応対するIR担当者はどこでも引っ張りだこです。


例えば、英大手IRコンサル会社の調査(44ヵ国、250社のIR責任者)によると(注1)、ESGがIR業務の一部となり、情報開示の要請が高まるにつれて、回答企業の半数近くが社内ESGの専門的な知見に投資しているといいます。
(注1) 1Citigate Dewe Rogerson, ‘IR Survey 2021’ (2021年11月)


実際、欧州企業ではすでに43% の回答がIRチームにESG専門家がいるとし、直近1年にこうした人材を採用したという回答も37%もありました。
急速な補強ぶりです。


他方、北米でもすでに27%の企業でIRチームにESG専門家が活躍しているといい、さらに2022年半ばまでにESGの専門家を採用する予定だとの回答は9社に1社でした。


機関投資家も動いています。
ESGは企業との「建設的な対話」でも大きなテーマですし、ESG投資の部門強化も あります。
例えば、この4月日本のESG投信(37社・225本)を調査した金融庁の発表(注2)によると、ESG専門部署・チームのない運用会社は30%(11社)、1人のESG専門人材もいない例は38%(14社)もあったといい、事態は急を要しています。

(注2)金融庁「ESG関連公募投資信託を巡る状況」(2022年4月)


そして一部には、政府機関やNGO、国際開発金融機関(MDBs)(注3)などに目を向け始めているといいます。
まさに、資産運用に熟達したシニアESGスタッフのリクルートは、まるで「椅子取りゲーム」のように激しくなっています(注4)。
(注3)途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を、金融支援や技術支援、知的貢献を通じて総合的に支援する世界銀行などの金融機関。
一般的にMDBsと言えば、全世界を支援対象とする世界銀行と各所轄地域を支援する4つの地域開発金融機関(アジア開発銀行、米州開発銀行、アフリカ開発銀行、欧州復興開発銀行)を指す。
(注4)フィナンシャルタイムズ 2022年4月21日


話を企業のIR担当者に戻すと、投資プロの 資格認証で知られる米CFA協会は、2年前からESG関連の資格を用意し、全米IR協会(NIRI)や英国IR協会も、その資格試験のための研修セミナーを開催しています。


当然、自社のIRチームを紹介するサイトで ESG担当者を紹介する例も少なくありません。
例えばフランスの食品大手ダノン(注5)やドイツ化学大手BASFです(注6)。
(注5)Danone's shareholder contacts - Danone
(注6)Investor Relations Team (basf.com)


BASFの場合、11人のIRチームのうち2人がESG担当です。
自社の住所・電話番号、メールアドレスなどを載せた「IR部門のコンタクト先」に、IRスタッフの名前にESGという担当業務、そして電話/メールアドレスが掲載されています。


「一般的なコンタクト先の記載だと、自分が誰に連絡している のか、その確信がいまひとつのように感じる」「担当者の名前が あれば、責任ある回答を期待できる確信が増すように思う」という投資家の声も多く聞かれます。


説明力のあるESGストーリーを語る力量を備えたIR人材が活躍する時代が始まっているのです。


Profileライタープロフィール

米山 徹幸(よねやま てつゆき)

IRウォッチャー・埼玉学園大学大学院客員教授、全米IR協会(NIRI)会員。

大和証券(国際部)、大和IR、大和総研を経て、2010年埼玉学園大学大学院教授、2017年より現職。主な著書に「大買収時代の企業情報」(朝日新聞社)、「イチから知る!フェア・ディスクロージャー・ルール」(金融財政事情)、「新版 イチから知る!IR実学」(日刊工業新聞社)など。翻訳に「ゴビ砂漠からの脱出 私の中国/アメリカ物語」(ウェイジン・シャン、金融財政事情)など。

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